Baku Hashimoto

星空の背景画像

『ヴァナキュラー・ウェブ』試訳の一部です。Olia Lialinaによる原文はこちら.

ヴァナキュラー・ウェブを象徴する要素として、星空の背景画像、通称「星空の夜(Starry Night)」がある。黒や濃紺、紫をベースに、またたいたり、あるいは静止したままの小さな光の粒が敷き詰められている。初期のウェブ制作者たちの間でとても人気だった背景画像で、たぶん当時のつくり手の多くがSFやコンピューターゲームのファンだったことにも関係しているんだと思う。





当時の人たちが、ウェブに好きな作品に登場する未来的な要素を重ねようとしたことには、単なる趣味の問題だけじゃなくて、新しいメディアに託された希望がしっかりと裏打ちされている。インターネットは未来そのものであり、わたしたちを未知の次元へ、あるいは他の銀河へと近づけてくれる存在だった。だから、そのビジュアルも Star Crash(訳注: 1978年に公開されたスペース・オペラ映画) や Galaga(ゲーム)のように、その希望にふさわしいものでなければならなかった。コンピュータの内部みたいでもいいし、どこか遠くの空間でもいい。とにかく、「スペース」= 宇宙的な壁紙はインターネットを「特別な場所」に見せてくれた。そこは明らかに、他のメディアには果たせない使命を帯びた「スペース」 = 空間でもあった。


Andrew Glazebrookによる、Starcrashスタイルの宇宙的ビジュアルの例


Galagaのプレイ動画。画像のリンク先(訳注: すでに切れている)を見てもらえばわかるけど、こうした星空の背景画像のいくらかは、実際にこのゲームをキャプチャしたものだった

星空の背景画像の素晴らしい点は、たった2色、ファイルサイズにして0.5KBくらいで、一瞬でページに未来感を与えられることだった。つまり当時の帯域の問題までクリアしてくれていたわけ。

でも、この星空の背景画像の悲劇は、それがどんなに壮大な見た目でも、実はどんなページの内容ともそぐわなかったということだ。科学系の文章にも、個人のホームページにも、映画館の上映スケジュールにも、探査機が撮った画像ギャラリーにも、全然マッチしていなかった。宇宙船でさえイマイチ本物っぽく見えなかった。そもそも空を背景に写真が載っているのは変だし、宇宙に文字なんて存在しない。仮にあったとしても、すごく読みづらいことになる。「i」の上の点が星なのか、「%」記号なのか流れ星なのか……すぐにこんがらがってしまう。

なにかしらデザインをしたことがある人なら、星空の背景画像が唯一映えるのは、他に何の要素も載っていないときだけってことは身に沁みて分かっているはずだ。前世紀末に作られたページのリニューアルを頼まれたら、まず最初にすることはstarbck.gif (宇宙の背景.gif)を取り去ることだった。

人類最後の(だから記録にも残っている)星空除去手術は2004年に執刀された。以下は、90年代スタイルをまとった某オンラインビデオショップのスクリーンショットだ。


リンク(訳注: 切れている)で今の見た目を確認することができる: http://www.video-online.net/

最後の生き残りのひとつが、http://www.kinoservice.de だ。ドイツのシュトゥットガルトとフランクフルトの映画上映情報を毎週更新しているサイトだ。このURLを打ち込むたび、あの星空の背景画像がいつの間にかリニューアルで消えているんじゃないかってヒヤヒヤしている。(訳注: リンク切れ)

日が経つごとに、「宇宙的なウェブの未来」への希望は薄れ、現実がその場を奪っていった。ニュースサイト、オンラインマガジン、電子オフィス、オンラインビジネス、そしてその他の “真面目な目的” たちが。「星空の背景画像」も、それに反比例するかのように減っていた。かつては未来の象徴だったそれが、今やウェブ黎明期のシンボルとして見なされるようになった。意味は真逆になった。未来から過去へ。

しかし星空背景は、AnniやJensのような人たちが数ページだけ作ってそのまま放置した、あの大勢のアマチュアたちの存在を思い出させてくれる。

この画像が連想させてくれるものはとても強烈だ。最近出会ったのは、2004年モデルの車「ルノー・メガーヌ II(訳注: リンク切れ)」のプロモーションサイトだ。プロによって作られたもので、宇宙船のような車体デザインに合わせたデザインなんだけど、まるでルノーのファンが作ったかのように見える。なぜなら、たとえFlashサイトでも、「ウェブサイトに星空を使う」という行為そのものが、宇宙らしさというよりアマチュアっぽさを感じさせてしまうからだ。

「星空」は、ウェブ文化のメインストリームの外側でこそ輝く。だからこそ、サブカル、オルタナ、カウンターカルチャー的なものと馴染む。「反〜」という接頭辞とも相性がいい。たとえば、http://unamerican.com は、ステッカーのショップであり、反米思想のポータルサイトでもあるんだけど、星空がその理念にある種の説得力を与えている。作者は地球の外から、客観的に状況を俯瞰している、そんな立ち位置を演出している。

わたしが教えているメルツ・アカデミーのプロジェクトページ(訳注: リンク切れ)でも、宇宙的なモチーフをこれでもかと使っている。そこが完全にわたしの空間であり、学校のコーポレートアイデンティティとは一切関係がないということを強調するためだ。

そのほかにも、こんな事例がある:

さらに、2001年に始まった、きらめきをテーマにした種類豊富なコレクションもある。このコレクションの運営者は、わたしのこの記事を読んで意見を異にした:

「個人的には、星の需要は今まで以上にあると思います。いや、昔ながらの星空背景そのものじゃなくて、“星そのもの”のことです。世界中のデザイナーが、アニメーションや静止画に星を使ってギラギラとしたきらめき効果を出しています。星をフレームごとに違う位置に配置することで、画像を輝かせるんです。この興味は今後もなくならないでしょう。
(…)
もちろん、昔ながらの、つまり最初期の星空の背景が「最も望ましい背景」としての地位を失ってきていることには同意します。ただし、高品質な星空背景はその限りではありません。むしろ高品質な星空背景は、今ではより求められていると思います。

『ヴァナキュラー・ウェブ』試訳 目次

  1. 土着民と蛮族たち
  2. 工事中
  3. 星空の背景画像
  4. 無料ウェブ素材集
  5. リンク
  6. MIDI
  7. フレーム
  8. チルダ
  9. 〇〇のホームページへようこそ
  10. メールはこちら
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