Baku Hashimoto

〇〇のホームページへようこそ

『ヴァナキュラー・ウェブ』試訳の一部です。Olia Lialinaによる原文はこちら.

個人ホームページ上の「ようこそ」というメッセージは、ただ世界に向かって「こんにちは」と言うためだけに存在する。ただ、そこにはとても個人的で、文字通りアマチュア的なページが広がっている。休暇の写真、履歴書、無料の壁紙コレクション、レシピ、「最高のねこサイト」へのリンク集、そして「ステイタス・クォーの歴史1」だとか、ばらばらの情報が一つの山のように積み重なっている。

本来はただの歓迎のあいさつのはずだが、経験のあるユーザーにとっては、そのサイトの残りの部分も同程度の価値の情報しかないだろう、という警告のようにも受け取られる。

しかし、ネットサーファーとしてのわたしに言わせてみれば、ようこそメッセージの存在とサイトの質の間に相関はない。実際、この挨拶は、どうしようのないサイトにも、内容のとても豊かなサイトにも現れる。とはいえ、構造の欠如や、雑多でごちゃごちゃした内容が、アマチュアサイトの特徴だということにはわたしも同感だ。

でもそれは決してネガティブな特徴じゃない。とりわけ今日のウェブにおいては。むしろ「ようこそメッセージ」の存在は、そのサイトがマーケティング部門やCMSによってではなく、実在するひとりの人間によって作られたことを示している。それは情報に真正性と価値を与える。そして10年のウェブ経験が示してきたのは、一人のアマチュアの情熱が、給料をもらって働く十数人の専門家に匹敵することさえある、ということだ。たとえばファンサイトは、スター本人の公式サイトよりも内容が豊かで更新も早いことが多い(そしてそのスターがそれほど有名でない場合、ファンサイトこそが情報を得る唯一の手段だったりする)。本当のユーザーが作って公開した技術マニュアル(ハウツーやTips付きのもの)は、しばしば企業の資料よりも役に立つし、いかにもマーケティングっぽい空虚な言葉にもまみれていない。

そしてオンラインでも、むしろ実在の人とやり取りしたい場面がある。たとえば地元の商店、小さなビジネス、ホテルなどだ。

ホテルのオーナー自身が作ったサイトで、ホテルの設備だけでなく自分の趣味についても書いていたり、地元の猫や犬の肖像ギャラリーまで作っていたりするのを見ると、そのホテルではきっときめ細かいサービスが受けられるだろうと想像する。そして、ここが「違い」を生むわけだけど、オンラインの予約も旅行代理店ではなく、直接そのホテルに届くのではないか、とわたしたちは期待する。(この推測が正しいかどうかは、到着したときにわかる。)もっとも、アマチュア的な作り方自体は秘密でも何でもない。簡単にマネできるし、まがい物も作れる。だから、アマチュア風に見えるすべてのサイトを信用するべきではない。

「〇〇のホームページへようこそ」というスタイルは魅力的だし、場合によっては最もうまく機能する。個人ホームページではないプロジェクトであっても、他に適切な方法がないことさえある。

いくつか例を挙げてみよう:

http://www.zomtec.com/
ドイツの人気スナック菓子メーカーBIFIのプロモーションサイトは、アマチュア風サイトを模倣した史上最高の事例のひとつだ。真価を理解するにはBIFIのTVスポットを知っておくといい。奇妙な従業員たちが働く、得体の知れない工場を描いた連続エピソードだ。Zomtec.comはその工場のホームページで、TVスポットの登場人物たちが、明らかに暇なときに作ったものだ。マウスウォッシュの作り方を説明し、自慢の個人ホームページを披露し、BIFIとはほとんど関係のないニュースを掲載し、BIFIのバナーを掲げている。クレイジーな人びとによる、クレイジーな人びとのためのサイトだ。このことをことさら強調するため、デザイナーは不格好なフレームセット、ボタン、背景、アニメーションの旗といった、ウェブ上で面白いものを全部詰め込んだ。サイトは頻繁に更新されていて、しばらく前にFlash版も公開された。まるで誰かが初めて作ったようにも見えるし、同時に自分自身を茶化している。

http://www.sheriff.co.wise.tx.us/
テキサス州ワイズ郡保安官事務所のサイトは、ジョイ中尉とハフマン巡査部長が開発・維持している。FrontPage 2000で作られている。トップページには保安官の写真があり、メールアドレスへのリンクがついている。ページにはおかしなグラフィックがたくさんある一方で、郡民にとって重要な情報も豊富だ。保安官のサイトはとても不真面目に見えるし、アマチュアサイトにありがちな欠陥——他サイトからコピーして警察のニーズに合わせたナビゲーションシステムなど——をすべて抱えているが、メッセージは最高の形で伝わってくる。あなたの保安官はここにいる、あなたのそばに、あなたのために。そして納税者の金をデザイン会社に渡すよりいい使い道があることを知っている。
今月、郡には若い新しい保安官が就任した。サイトを再編成したりプロっぽくしたりしないことを願う。

d-a-s-h/

若い非公式のアクティビストグループがオンラインで活動し、その活動を公表するよう呼びかける招待状だ。ここでデザイン会社の手を入れるのは本当に間違いだ。若手デザイナーのM. ストルツとD. ゲストリヒトが草案で提案したように、学生のマルチメディアプロジェクトの初稿のような見た目のデザインという、ウェブの「母語」に訴えかけるやり方こそ正しい。

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eBayも良い例だ。オークション説明文の中でHTMLタグをいじれるからだ。人びとは即興を始め、その即興はプロっぽくなくカジュアルに見える。それが大事な、即興的な味わいを加え、蚤の市のような雰囲気を生み出している。

http://www.teamgal.com/arcangel/arcangel05pr.html

もう一つの事例。ただしウェブからではない。2005年1月、ニューヨークのアーティスト、コリー・アーカンジェルが「Welcome to my Homepage Artshow(ようこそ、わたしのホームページ・アートショーへ)」という展覧会を開いた。プログラマーやデザイナー、マネージャーのチームなしに自宅で作られたコンピュータ作品の展覧会には、ぴったりの名前だ。素朴に聞こえるが、複雑で高価なメディアアート市場のプロダクションへの対抗を強調している。「ようこそ、わたしのホームページ・アートショーへ」には、DIYの意味合いがしっかり込められている。

「〇〇のホームページへようこそ」というスタイル、そしてヴァナキュラー・ウェブ全体を、今日のウェブデザイン戦術として前面に押し出したい理由がもう一つある。ドットコム・バブルやブロードバンドブームを経て信用を失っていないからだ。だから、儚い移ろいや上っ面さ、ユーモアの欠如とは結びついていない。

2004年、art.teleportaciaギャラリーは[1000Page](http://art.teleportacia.org/1000)賞を企画した。プロフェッショナルではない人々によるウェブ制作に衆目を集めることで、皆に自分でページを作るモチベーションを与えたかったし、何よりも率直に、わたしたち自身見たことのないページを目撃したかったからだ。

そして素敵な驚きがあった。ポートフォリオ、ブログ、ネットアート作品のなかに、「ようこそ」系のページがいくつか見つかった。そのひとつが本当にわたしたちを魅了した。

http://mypage.bluewin.ch/Ysewijn/

ベルギー出身の心理・教育科学博士ピエール・イセヴァン(現在スイス在住)は、個人ホームページのようこそメッセージにかなりの力を注いでいる。イセヴァン氏は英語、ドイツ語、フランス語のいずれかのビデオクリップで訪問者を迎える。挨拶は実在の人物が話し、訪問者に直接語りかける。とても誠実なコミュニケーションの始まりだ。イセヴァン氏の見た目、年齢、声、そして立ち振る舞いがわかる。動画は多くの個人的な情報を伝え、「〇〇のホームページへようこそ」をブロードバンド時代にアップグレードしている。そして、初めて(!)、形ばかりの「ようこそ」以上の存在になった。これはつまり、疑いなく、ようこそという挨拶がそのままコンテンツになった例なのだ。

http://mypage.bluewin.ch/Ysewijn/english_video.htm 3

『ヴァナキュラー・ウェブ』試訳 目次

  1. 土着民と蛮族たち
  2. 工事中
  3. 星空の背景画像
  4. 無料ウェブ素材集
  5. リンク
  6. MIDI
  7. フレーム
  8. チルダ
  9. 〇〇のホームページへようこそ
  10. メールはこちら
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