橋本 Hashimoto   Baku

橋本 Hashimoto   Baku

サイトリニューアル、そしてお仕事のこと

お盆のあいだにサイトを大幅に作り替えました。

ポートフォリオはもちろん、17歳の頃の恥ずかしいブログ、Cosenseに貯めていた半プライベートなメモ、そしてこれまで積極的に公開してこなかったコマーシャルな案件まで、全部まとめて載せています。非公開を含めると1700ページほど。Everythingから一覧できます。ある種のダダ漏れの実践です。

サイトの構造は見てわかるとおり、ナレッジベースアプリのCosenseObsidianの影響を色濃く受けています。つまり、ブログのように時系列で並べたり、階層に分類しようとはせずに、互いに(ハイパー)リンクする文章の小片を、ルート直下に平等にぶら下げる方式にしています。こうした文章整理術は、梅棹忠夫の京大式カードツェッテルカステンなど、デジタル以前から掘られてきた伝統の延長にあるのですが。

そもそもこのシステムは、Featured Projectsの後藤さん、相樂さんのために、仕事として作り始めたものでした。ただ、あまりにバイブスでコーディングし過ぎて不具合も多かったので、baku89.icon自身のサイトでもって安定化を図ることにした、という経緯です。CMSとしても汎用性が高いはずなので、ひとまずObsidian(黒曜石)に乗っかる形で Morion (黒水晶)と名付け、みんなに使ってもらえる形に育てていくつもりです。ご自身のサイトに使ってみたいという方、そしてWeb制作まわりのご相談などあれば、受け付けています。ひとまずは、友人のダンスカンパニーのSpacenotblankのサイトの10年越しのリニューアルにも投入するつもり。

MorionのロゴをChatGPTに作ってもらった


そしてもう一つのご報告として、13年所属した事務所を離れ、独立しました。

ぼくは2019年の ISSEY MIYAKE の映像とWebを最後に、コロナ禍以降は仕事らしい仕事をほとんどしていませんでした。その間は GlispTweeq といったツールの研究開発や、半ば自主制作のようなミュージックビデオに没頭してきたのですが、そろそろ、こう、ちゃんと仕事をしたい(しなくちゃ)という気持ちになりつつあります。察してもらえますでしょうか。この数年、ご依頼をお断りしてしまった方々も、ぜひあらためて声をかけてもらえたら嬉しいです。

肩書は相変わらず「映像作家」ですが、空間やライブ演出、プロダクト、Webインタラクティブな分野は、これからもっと注力していきたいです。AC部YOSHIROTTENとマシンを作った時もしみじみ感じましたが、動きのある立体物って奥深いですね。ちなみに後者は、フンイキでブラウン管を組み込んだがために、展示期間中に静電気で基盤が壊れてしまいました。

映像に関しても、今後TVCMや広告映像のディレクターとして活動を続けるかはわかりませんが、あらためて現場のことを学び直したいと思っています。撮影現場は正直まだまだ苦手なので……。直近では Amber Kuo らのビデオを4カ国で共同制作したのがすこぶる楽しくて、またああいう制作に関われたらなぁと思っています。メディアアート界の重鎮こと藤幡正樹さんにも刺されましたが、「共作をする」というのがこれから数年の個人的なテーマです。

「独立」とはいっても、完全にフリーになるわけではなく、INS Studio、Vertigoの2社に引き続きマネージメント等のサポートをお願いしています。じゃあ何の報告なんだ、っていう話ではあるんですが。ただ、これをいい機会に、なにかと接点が無かった方々とも通話やお茶、ご飯などできたら嬉しいです。東京に住んでいますので、雑に誘ってください。多分こちらからもお声がけすると思います。


書くことがなくなったので、このCMSシステムについての覚書でもメモしておこうと思います。

Morionの原則

階層性と線形性を信じない

普通のCMS開発のように、workeventmember のような投稿タイプや、 /2025/some-post といったディレクトリに分類したりはしない。そうした設計はその瞬間の見立てにすぎず、「workでもありeventでもある」ような中間的なコンテンツの登場とともに破綻する運命にある。コンテンツ同士の連関は「AがBに属する」のような含有関係ではなく、「AがBを指し示す」というリンクによってのみ決まる。また、Morionでは「ページ」と「タグ」の区別をしない。(Cosense同様)

ローカル・ファースト

ページのは常にローカルに置かれたテキストファイルと同期する。File System Access APIによって)ローカルは単なるバックアップではなく、オリジナルそのもの。書き手の「第二の脳」をクラウド上に人質に取らない。

プレーンテキストは普遍的なインターフェース

ページのソースはプレーンテキストによって表現される。CMSの管理画面だけではなく、メモ帳からも編集出来るし、ほかのCMSにインポートすることも、コマンドで一括置換することも、AIに喰わせることもできる。このサイトはbaku89.iconの好みでMarkdownを採用したが、HTMLに変換できさえすれば、Cosenseのブラケット記法でもなんでも好きな構文をユーザーは採用することができる(予定)。

ちょうど今日、The VergeにObsidian CEOのSteph Angoへのインタビューを読んでいて、そこに
「ひとつ面白い展開として、ぼくはステフにこう尋ねた。多くの競合が生産性ソフトに次々とAI機能を詰め込もうとしているのに、なぜ Obsidian はそれに倣おうと急いでいないように見えるのか、と。」
という下りがありました。これは的外れも良いところで、プレーンテキストこそがその答えだろうと思っています。だってObsidianの実態は手元のPCに保存されたただのテキストファイルなんだから、Claude Codeにでもなんでも食べさせることができる。
エディタとの統合という点では Cursor を使ったっていい。むしろNotionはNotion AIとしかインテグレーションされていないですし……。Obsidianには、多くのプラットフォーマーが口にする「エコシステム」なんて意識はなくて、プレーンテキストを介した、人類がこれまでに築き上げてきたコンピューティング文化という、より大きなものの一部であるっていう自覚と謙虚さがあるんだと思います。

ダダ漏れをアフォードする

コンテンツの階層構造同様に、その書き手の気分もまた、公か私か、寄稿かつぶやきかといった境界で割り切れるものではない、連続的なもの。Morionでは、そうした曖昧さを切り捨てず、そのままに受け止められる「構造のなさ」を大事にしている。ブログとニュース、リサーチとブックマークは区別なく保管でき、両方のタグをもたせればその中間的な性質をもたせることができる。ページの公開設定やクロール設定も多段階でセットできるし、気まぐれで変えることもでる。だからこそ、書き手は自分の思考や制作の過程を“ダダ漏れ”のまま残しておけるし、読み手はその連続性を含めてアクセスできる。