橋本 麦∿Baku Hashimoto

賽の河原

あんま関係無いけど、高校時代の進路指導のことを思い出す。
月イチで武道室に集められて、模試の結果を道内の他校と比較したり、「受験は団体戦」だとか「受験は人生の縮図」という今考えても意味の分からないモットーを吹き込まれたりした。

部活で作っていた映像にドハマリして本気で映像業界目指そうと美大に進路希望したときも、潰しが効かないよと国公立を勧められたり、美大っぽいクリエイティブなことが学べる学部もあるからと先生に止められたりした。恐らく純粋な善意で。そのお陰でSFCの佐藤雅彦研(当時はもう無かった)を知れたので良かった面もあるけど。

当時は特に反抗的というわけでもなかったけど、言ってる意味が分からんかったし苦痛だった。推薦合格が決まっていてもなぜか受けるルールだったセンターをサボって Objective-C を勉強してた。

だけども、どれだけそうした進路指導の影響を受けないようにしたとて、3年間を通してマントラのように吹き込まれた偏差値偏重な価値観は無意識レベルで内面化してしまう。美大に入学した後もしばらく、なにか真っ当なキャリアからドロップアウトしたかのような劣等感が続いていた。地元では美容専門学校でしか見ないような派手な髪色の人を見て偏差値低そうとかクソみたいなルッキズムを引きずっていた。

「学歴が全てじゃない」とか当時は綺麗事…とまではいかずとも、大多数の日本人をいじめてくれない為のやさしい建前だと思ってたし、「多くて2浪以内に大学入って、最低修士までは進学しつつ新卒でいい感じの企業に」という諦観がオトナなのだと思いかけてた。今思うと典型的な田舎根性かつ高二病止まりの可愛げなシニシズムでしかないけど。

いや、そういう価値観で幸せになれている人は多分そのままで良いのだとも思う。多分ある世代まではそうした「しながさ」を受け入れることでサバイブ出来た面もあるはずで。だけども、終身雇用も崩壊して、「安泰」とされる職種ほど(職業としての貴賤とは関係なく)労働環境が保守化し続けたり、安く見積もられていくなかで、もっと多様なキャリア観に選択肢として触れられた方が幸せになれた同世代も多かったんじゃないかと最近思う。

なんてことは薄々みんな気づいているとも思うのだけども。さすがに「女は短大で十分」とか今の時代誰も言わない。

親族への挨拶で、今こういう事をしているんですと説明した時に「今のうちは好きなことを追いかけるのも素敵だね」と言ってもらえた。中学教諭をやっている姉妹は、僕なんかと違って社交的で生徒からも人気で、ちょいちょい答案に「結婚出来ない橋本先生」イジりをされたりしていた。

多分このレベルでアンビエントかつ、なんなら親しみを持って蔓延しているバイアスやマイクロアグレッションこそが、あからさまに偏狭で保守的な押し付けよりも、チビチビと無自覚にキャリア観を狭めていく。

個人的には家庭が根っからのリベラルなのもあって、そういう種類の悪影響もそこまでは受けなかった。今となっては過去の記憶だったりもする。だけど、今再び地元で暮らしてみて、パートナーや地元の友だちがそういう価値観に縛られて仕事や人生設計に苦しんだりするのを見るとそれなりにしんどくなる。Twitterや飲み会で愚痴って対処療法的にストレスを溶かして貴重な20代を浪費するくらいなら、環境を変えればいいし転職すればいいし、興味のあることを勉強しに社会人入試でもすればいい。

…とか思ったりもするのだけど、それを押し付けるのもまた別の暴力。現に僕自身、仕事も全然やり方掴めてないし、未だに調子の良い制作の仕方に悩んでは手は動かないし。んで日々迷惑振りまきつつも事務所のみんなを始め周囲の人たちの寛大さに救われている立場なので何も偉そうなことは言えない。

それに、個人の思い込みの問題じゃなくする社会的欠陥ってのは必ずあって、その発露が、例の医学部入試差別なのだと思った。ちょっと時間経っちゃったけど、アクチュアリティに溢れた曲だったのでシェア