橋本 Hashimoto   Baku

橋本 Hashimoto   Baku

模倣する意図

ラフォーレの広告が、酒井いぶきさんの作風と似ていることで炎上していた。

2年前にラフォーレのCMアニメーションを、同じ代理店の元制作させてもらった。ポートフォリオにもSNSにも載せていなかったけれど、その時の苦々しい思い出が蘇って、珍しくTwitterに長文を書いてしまった。その後、別案件でトラブルやぼく自身のミスが続き、気持ち的に完全に落ちてしまって「今後この代理店からの仕事は請けられない」と泣き言を言ったこともあった。思い出すのも辛い。

このぼくらがつくったバージョンも微妙っちゃ微妙で、Vaporwaveの雑な影響を経て出来上がった“インターネット感の成れの果て”みたいな印象を受ける。ぼくが推していた galen tipton に代わってパ音さんが起用され、曲自体は最高なのに「バーゲン広告」に充てがわれたせいで結果的にMuzakっぽく響いてしまったのも、この得も言えぬVapormeme感に拍車をかけている気がする。もちろんGUIの抽象化やコラージュがRafael Rozendaalの専売特許というわけでもない。

ただ、このチームはヤミ市のドキュメンタリーを作られていたり(いい作品です)、ネット・アートやNEENのような動向にも近接している印象があっただけに、配色や意匠の一致が偶然にしては不自然だった。その上、打ち合わせ中に一切名前が出なかったことが妙に後味悪く感じた。しかも去年の広告でもパクリ疑惑が出ていたくらいで、この絶妙な類似は「偶然」と言い切れないくらい頻出しているのかもしれない。

ぼくは当時のツイートで「看過してしまった」と、ある意味被害者ぶった言い方をしてしまったけれど、もし炎上していたら間違いなく「加担した」側だった。その点は肝に銘じるべきだし、おそらくアートディレクターも同じ立場だったはずだ。結局「似てる気もするけど誰も指摘してないからまぁアリなのかな」と、それぞれが自分を納得させるプロセスが重なり、巨視的にパクリ案件を生み出してしまう。この構図こそ、この手の炎上の典型なんだと思う。炎上に怒りたい人たちは、分かりやすいスリザリンを想定して「悪い奴らが悪だくみした」という物語を欲しがる分、「誰にも悪意も剽窃の意図もない」という事実は、むしろ事態をこじらせる。

だから「意図があったかどうか」は論点としてズレていると思う。むしろ問題は、酒井さんの作風が「ラフォーレっぽい」として消費され、結果的に作家性を搾取する形になってしまったことだ。そこに触れずに「意図はない」とだけ言うのは的外れだと思う。パクったかどうかとか、テプラがだれのシグニチャだとかは、それはそれで外野同士で議論する分には楽しいのかもしれないけれど、少なくとも本人にリプライで突っかかるような話題ではない。

そんな折に、こんなツイートを見た。

結局田所さんも含め、外野でやんや言う人達のモチベーションは「気持ちいいことを言って気持ちよくなりたい」に尽きると思う。とにかく、このレベルの言説は人の目に触れる場所にわざわざ書く価値は無いので、個人サイトの深いところにひっそり残しておきます。