最高の2小節grass
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「『最高の2小節を見つけたい』というのが彼の口癖で。ビートへのこだわりのなかでも、とくにループ感を重視していました。それが彼のヒップホップ観でもあった。
90年代、東京。ある若者がNujabesを名乗り、ヒットメーカーになるまで 【Think of Nujabes Vol.1】 | ARBAN
最高のN小節がループしているだけで、無限にご飯が進む
ceroって実は、このアルバムまであまりピンと来てなかった。なんというか、当時の自分には根明で鮮やか過ぎたというか。
けど『e o』は、清々しさ、寂寞感、色んなアンビバレンスが複相的に重なり合ってるような感じがする。同じ鮮やかさでも、モネの睡蓮のような、矛盾し合う濁りのなかからぼんやりと像が浮かび上がってくるような感じというか。いや、この「Angelus Novus」は、タイトルからしてベンヤミンが『歴史の概念について』でパウル・クレーの同名の絵に託した「歴史の天使」がモチーフになってるんだけど。(正直『天使』シリーズはパウル・クレーのなかでも好きじゃないほうだ)
冒頭の「♪ファファファファ」の後に提示されるピアノの8小節のモチーフがとてつもなく好き。そこを下支えするように低く唸るストリングスと、散りばめられた「ップーン」みたいな音が変化することで、展開を生み出しているんだけど、モチーフ自体は我関せずと、ただひたすらにループしている。そのモチーフが消えてベースだけになることで「転」の趣が生まれ、そこに冒頭の「♪ファファファファ」が合流し、共鳴し合いながら「♪ピュロロロン ピュロロロン…」と電子音に飲み込まれていく。そして、全てがまっさらにリセットされるような最後も美しい。
ループ感のあるピアノのモチーフという意味では、Cuusheさんの「Drip」も好き。「♪ジジジジャーン」というピアノの和音進行に、パーカッションが強く突き上げ、ausさんプロデュースのエレクトロニックな音がミチミチに張り詰めている。
パッヘルベルのカノンを聴くたび、上モノのストリングス3兄弟よりも、その下で大逆循環のドミナントをなぞる低音の方を思わず口ずさんでしまう。いや、口ずさむというよりも「唸る」といったほうが近い。
この曲も、構造的にはカノンでこそ無いものの、ベースのループ感が気持ちよくて唸ってしまう。ピアノが空高い空中で3次元的に鳴り響くとしたら、ベースはそこに「地面」というXZ平面という座標基準を与えてくれる。それによって、より高さが際立つ。なんか曲全体が空間的で、頭の中には、Alex Rutterford的なオーディオビジュアル隊列が、宇宙高い雲の間で弾け飛ぶ画が思い浮かぶ。いや、森田仁志さんのクラムボンとkzのビデオのような、いろんなテクスチャとカメラ揺れが、アウト・オブ・コントロールな感じでわちゃわちゃとしている感じもするなぁ。この曲のMVを作りたいとずっと思ってる。
「Drip」に限らず、ゆるふわドリーム・ポップとは言わせないという決意感にも満ちた力強さのなかに、Cuusheさんの霞がかった存在感、そして悲しみが併存している。『WAKEN』全体のその質感に、baku89#iconはすごく心が揺さぶられた。6年経っても聴いてる。
武蔵美時代、ESNOのこの一つ前のアルバム『Visionary』がbaku89#iconの周りで流行ってたっけ。ジャジー・エレクトロニカはある時期のインターネット音楽の小さくない一角を占めていたような気がする。くまおり純さんによるアートワークといい、2015年頃の後期Tumblr美学のアンニュイさを思い出させるというか。このアルバムでフィーチャーしている他のボーカルも、daokoにボンジュール鈴木、リリスクyumiと、そういう文脈ド真ん中やんけって思った。あと泉まくら、ラブサマちゃんのことを思い出すなど……。自分のスタイルやフィルモグラフィー的には交わりがないのだけど、この線、すごく好きだったな。
で、MVが作られたdaokoの『夕暮れパラレリズム』と違って、そこまでリードトラックとして推されてるわけじゃない、アルバム終盤に添えられた「とか。」は、ループ音楽として聴くととてもおもしろい。最高の2小節どころか、たった1小節のモチーフが2分間にわたって繰り返されるだけ。実はリミックス楽曲で、きゃべこ氏のオリジナル音源を昔SoundCloudで聞いたような気がする。とにかく平坦だった印象。その「何も起こらなさ」を尊重するように、2拍 + 2拍で繰り返されるコード。すると、ふと
黄昏 風吹く町に
黄昏 雨降る町に
という歌詞とともに2小節に引き伸ばされて、おやっと身を乗り出す——と思いきや、また今まで通りのバースに戻る。
2度目の「黄昏–」も同様にループが引き伸ばされる。とはいっても、どうせさっき感じにに戻るんだろうなぁ、と思ったら、急に平調だったラップにメロディアスな音高が加わる。そこに彩りを添えように最高の8小節が幕を開ける。曇天な一日のなかで、西の方に開けた空の隙間から西日が差し込むような、一瞬の煌めきというか。すごく陳腐な表現だ…。
暗い暗い 場所に明かりが灯って
綺麗という言葉で足りない夢の中に落ちてまた明日
また会えるよと繰り返して
これまで控えめに鳴り響いていたベースが、ピアノと歩調を合わせるように下降するのも好き。ボーカルを引き継ぐようにヒヨヒヨとしたシンセ音が引き継ぐ。その「♪ヒョロロ⤴ ヒヨ ローリー」の部分が、どこかとんちきで癖になる。