橋本 Hashimoto   Baku

橋本 Hashimoto   Baku

勝てるポートフォリオ

というイベントについての内容がタイムラインに流れてきて、いきなり「ヴッ」と一方的に食らってしまった。

もうここまでしつこく突っつくほどのことでもなくて、単純に自分とは世界の捉え方が根本的に違う界隈なんだと思う。だから、もう距離をおくべき段階なのかもしれない。

とはいえ、共通の知人が多いのか、それとも自分の活動がそうした文脈のシーンにも届くようになってきたのか、最近は不思議と接点が増えている。たとえばnormalize.fmの公開収録や、少しドメインは違うけれど問いフェスにお声がけされたり。だから、フォロイーの誰かが関わるそうしたイベントの情報が自然と目に入ってくることが多く、否が応でも考えさせられる。

Xやnoteで漏れ出す識者からのフィードバックそのものよりも、たぶん自分が引っかかっているのはイベントタイトルそのものなんだろうな。「勝てる」って、いったい誰に対してなんだろう。そこで、戦いのメタファーを持ち出す意味はどこにあるのか。仮にそれが「自分に打ち克つ」的な内省的ニュアンスを含んでいたとしても、別にそんなテストステロンに溢れた闘争的な言葉で括る必要はなかったんじゃないかと思う。

それに、ポートフォリオサイトにもいろんな役割があるとはいえ、就職・転職・案件獲得にしか目的意識を置いていないのは、少しもったいない。ポートフォリオサイトは実績見本集である以前に、土着的な個人サイトでもあるのだから。

ぼく自身、他の制作者を「採用」や「発注」の視点で「人材」として見れた試しがない。自分がそういうマクロな視点を持つような規模の組織やプロジェクトに関わったことがないからでしょう、というのは確かにそう……。もちろん映像ディレクターとして美術やコレオ、キャストの方々を選ばざるをえない場面はあるけれど、人気ゲーム会社やアニメ制作会社の採用担当みたいに何十人何百人をスクリーニングするわけじゃない。だからその人が関わった仕事や作品を時間をかけて丁寧に見にいく。ポートフォリオとしてのプレゼンの巧拙が発注の決め手になることは、ほとんどない。

いわゆる就活指導的な視点でポートフォリオを見ることも、自分の場合あまりない。まず見るのは作品そのものの質。そのうえで、「就活市場」でのインパクトを狙った器用さよりも、ドメイン名やURL構造に無意識に滲む知的世界観、サイト上に散りばめられたコピーやタグラインに透ける言語感覚を通して、そこからその人のアティチュードを全体として感じ取ることが多い。(後述)

そういうポートフォリオの見方は少数派だという自覚はある。でも裏を返せば、それだけ「見る側」の視点にはばらつきが大きいということでもある。一つの方向にファインチューニングしても、別の文脈では逆効果になる可能性もある。

たとえば、イベントでの識者からのフィードバックを愚直に反映させると、ぼくの肌感覚では文芸・アート系の領域ではむしろマイナスに働くことが多い。Web制作会社への就活についてはともかく、こうした業界では(深い専門性に基づく具体的な言葉を除いて)いわゆる自己啓発やガクチカ的な言語感覚を嫌う担当者の方は多いし、ポートフォリオは採用側を意識した説得材料というよりも、スクショするとそのまま「ムードボード」として機能するようなデザイン性が求められる場合が印象としては多いからだ。「印象」としかいいようがないのは歯切れが悪いのだけど……。そもそもそういう世界は予算が潤沢なことはあまりなく、こうした添削イベントを主催するような業界の人たちの眼中には入っていないのだろう。

仮にこれをぼくが添削するなら、このBGMやテロップ、【囲い文字】を広報に使う制作会社とは、たとえターゲット層に合っていたとしてもご一緒するのは難しい、という感想

だからぼくのスタンスとしては、制作者に傭兵的な資質が求められ、業界全体で「高品質さ」への価値観が収斂しているような領域ならともかく、そうでない場所では「選ばれやすいように上手にプレゼンテーションする」ためのコストを(多くが初学者や学生である)売り手側が払うよりも、「その人の内的な資質をちゃんと汲み取る」コストを買い手が負担する方が、経済的にも品質的にもわりとマシなんじゃないかと思う。ただし、Webフロントエンドようにポートフォリオサイトの構成そのものがスキルの証左でもある領域においては、また話は変わってくるのかもしれない。難しいなぁ。

そして何より、こんなポートフォリオサイトを作っておきながら、ぼく自身はというとクリエイティブ業界外の方から直接ご相談をいただくことはほとんどない。「Artists’ Artist」的な見せ方に振り切っている自覚もあるし。だから多分、営業用のポートフォリオとしては失格なのだろうと思う。


山田 啓太さんとお話した際、作品とかスキル、経歴以上に、その人のアティチュードがポートフォリオの構造設計にどう反映されているかを感じるのは面白いって話をした。いわゆる美大系の就活指導で言われるようなポイントではないところに、制作者としての世界認識が無意識に表出している

  • 映像系クリエイターの場合、サムネイルが16:9固定か?
    • フォーマットへの意識
    • field.ioとかは不揃いだったりもする
  • ドメイン名
    • .jp .tokyo ドメインのような国や都市と密結合なものか。 あるいは.video .design のようにジャンル名を特定するようなgTLDか
  • 階層化の仕方
    • /work/project-name のようにするか。あるいはルート直下にするか。
    • 「仕事」や「作品」のことを work, works(複数形), あるいは projects と呼ぶか
    • コマーシャルワークと個人制作を分けるか
    • 時系列順に並べるか、Featured Projectsを全面に出すか
  • サムネイルが「作字されたタイトル」か、それともただのイメージか
    • どの程度言葉が占めるウェイトが大きいか
  • どういうライセンス形態にしているか