フィーのこと (メモ)
このページは個人的なメモ書きです。何かあればご連絡ください。
こういうのこそどんどん知見として外部化していくべきだと思う。
内容の正確性については保証できません。また、baku89.icon個人、そして関係者の方が実際にそういう相場感で受発注をしていることは全く意味しません。多分こういうメモを公開してくれる他の人たちとの平均を取っていくのが最善
似たようなメモを公開している人たち
- 前提として、クリエイティブ(広告)業界はお金がなくなってきている、そして立場ごとにある程度の情報の分断によって、(悪意とかズルなどではなく、生活のため、真っ当な経営判断として)フィーを取っているという構造がある
- 学生のころ、乃木坂のある巨大リテールストアのサイネージの映像を2万円とかでやっていたころがある
- 元値はどのくらいだったんだろう、とふと思う だけど、今の環境にたどり着くきっかけを作ってくださった恩義も感じている
- そして何より、「学生にチョロい額で発注する」ことの裏側には、しゃんとしたプロ意識をもって仕事を完遂できない可能性に対する保険料も含まれている。忸怩たる思いで告白すると、baku89.icon自身大学2年生のころに案件をまるごとバックレたことがある。関係者からの「直接謝りにきてください」とのSMSに対して、無礼な開き直りをした
- クライアントへの見積もりを作業チームにも開示するプロデューサーの方はほとんど居ない
- 「入口と出口を制するものがITビジネスを制す」とは某社長がいったものだが、実際にそうだと思う。実際に作り上げたものの使用価値に対する見返り = ギャランティーではなく、自動的に加算されるフィーやレントとして収益をあげるほうがいい
- 制作会社がしきりに「自社プロダクト」のようなことばを口にするようになったのは、クライアントワークという、労働に対する収益をワンオフでしかあげられないことへの限界
baku89.iconの反省は、メイキングを公知していくというスタンスから、お金の話を除外していたこと。特にMVのような、経済的にはもはや終わっているジャンルにおいて、個人制作にも近いかたちで取り組んできた身として、作品づくりのそうした側面に触れてこなかったのは、不誠実だったんじゃないか、って今になって思う。
baku89.iconの考え方として、作品としての制作される意義と経済的な交換価値は、おおむね正の相関を持つものの、基本的には独立している。だからこそ、音楽、美術、小劇場、独立系アニメーションのように、baku89.iconが個人的に意義を感じているがしゃんとした予算をつけづらい世界に寄与するゆとりを生み出すためにも、本来お金がしゃんとつくべき世界(広告、ショービズ、建築や不動産、商社、金融等、ある程度「スキーム」の仕上がっている業界)からはしゃんとした費用を取る。たかがクオリティの為に安い仕事を作り出さない。(= 予算しかないのにチームをつくらない。外注しない。ただ、ディレクターとしてプロジェクトをそういう性質にしてしまうことがあって、忸怩たる思いでお願いしている……)
できれば、こうした知見の公開も契約条件に盛り込む。(過去数件、NDAからフィー周りの情報を除外することに同意頂けた) ただし、それ自体が情報として古びたり、的外れだったり、ダンピングに寄与してしまったり(オンラインスクール系が宣う「副業LP制作で月商40万!」とかはあまりに安すぎると思う)する可能性もあるし、ご批判を浴びることもあるかもしれないけれど、多分そういう情報に触れられるか否かによって勾配が生まれてしまうことのほうが、個人的にくやしい。Information wants to be free.だから。
デイレート
- 実務として手を動かす際は非常に定性的で見積もりが取りづらいのだが、VFX業界だとデイレートが一つの目安にはなる。School of Motionのこれが参考になる。(更に高くなっていると思うが)
- $800-1000/day - You can run your own studio, and have experience subcontracting work out, have connections, and can handle large projects. You might be directing a piece, or a team of motion designers.
- $1,500/day - You are a specialist. Few can do what you can do, at the level you can do it, with the speed and efficiency you can do it with. Realflow, Houdini, particle, fire, water simulations, etc.
- $2,000+/day - You are a select few that have been in the industry 10+ years, have worked with some of the largest clients in some of the largest studios, where you might be hired to oversee a project from start to finish. You might have to roll up your sleeves and do some motion design, but that's not what they are paying you for. They are paying you for direction, creative ideas, and thinking of out-of-the box solutions that really stand out, all the while knowing how to execute with a team.
- 案件の種類を問わず、baku89.iconは1,500-2,000USD/dayを商業案件の一つの目安にしている。見積もりというよりも、予算から実制作の稼働日数を逆算するのにも
- 有名モーションデザイナーが海外で働き始めたころ、君のデイレートは? とマネージャーに聞かれて $200 もらえたら十分です……くらいに返事をしたら、自分を安売りしすぎって怒られたって懐述していたのを思い出す。
- ある程度ステージが上がってくるほど、こうした「人日」的な考え方は薄まってくる。ロイヤリティー、年俸、ディレクションフィー、顧問料、コンサル料のように、作業に比例した定量的なギャランティー(謝礼)の世界から、フワッと定性的な見積もりになっていく
登壇
- Motion Plus Design in Paris 2018は、登壇料が無い代わりに日本とパリの往復航空券(エアチャイナ、北京空港乗り継ぎ)と、パリでの滞在費
- 運営メンバーにも進められてパートナーと合流して滞在予定だったのだけど、当初予定していたAirBnBのオーナーが当日バックれてしまったので、一晩FounderのKookの家に泊まった
- IAMAS卒展「苦悩と誠実」のトークイベントは、卒業後の経験年数に応じて。ぼくはbaku89.iconは16,000円だった。
- 学位で差をつけてくれなくてうれしい
- ただこれがぼくより経験年数の多い方を含む鼎談形式だったために、その差額についてのやり取りが後々モメに発展する… → 「最近おっしゃってることの意味が全然理解できない」
- 問いフェス Vol 3は5,000円
- Vue Fes Japan 2025」のように、OSSにまつわるものは無料であることが多い。喜んで引き受ける
- 美大、大学でのゲスト授業は、一回2-5万円前後。Contactにも書いた通り、ある程度営利性を持つため、
ギャラリー
- 貸しじゃないギャラリーで展示したとき、作品販売時のギャラリー側の取り分は5割ほど
- 物件の賃料からキュレーションから、お得意様への営業活動まで、展示それ自体以外にも様々なコストがかかるので、baku89.iconは妥当だと思っている
- 平面作品の売価は1万円/1号と聞いたことがある
映像
- 映像案件での制作会社側のプロジェクト・マネージメントフィーは3割ほど
- 契約や打ち合わせへの同席、法人格というアカウント/クレジットを貸す程度の関与の場合、どれだけ多く見積もっても1割
海外案件
- 海外案件はdepositという習慣があることもある つまり先払い
- 半額を先払いとか?
- 先払い分といっても、翌月末とか、最悪1年先になることもある。契約書にそうした支払いサイトが明記されているか、支払いが遅れた際の違約金
- 契約を締結するまで一切手を動かさないのは大事
契〇〇でチェックすべき項目
注意: 法務的なアドバイスではないし、ボイラープレートでもない。あくまで個人的なメモ。なお、これは顧問弁護士による法務チェック後に実際に取り交わした書面ではなく、その叩きとしてぼくがテキトーにchatgpt.iconで生成したもの。
Xで言われるような著作人格権の行使云々とかそういうのは、すでにかなり情報が出回っているので、baku89.iconに限ったチェックポイント
- ポートフォリオ、メイキング等の掲載許諾
baku89.iconは、■の事前の承諾なしに、本案件に関するすべて、もしくは制作に使用された素材、開発されたアイデア・ノウハウについて開示し、もしくは開示元にデータを提供することができる。ただし、利用する国または地域における慣習に従って、baku89.icon及び■、その他第三者の権利を侵害しない範囲で範囲内で使用することとする。
- 案件をあまり表に出したくないとき
■は、baku89.iconの同意があった場合に限り、本案件に関するWebサイトやソーシャルメディア上において制作者としてのbaku89.iconの名前を表示することができる。ただし、アワード等への慣行により、クレジット表記が必須となる場合には、この限りではない。1
- 二次利用
baku89.iconは、本案件で開発したデザイン、アイディア、ソースコードを、乙のブランドイメージまたは独自性を損なわない範囲において、他案件に自由に流用することができる。ただし、■と競合する案件には使用しないものとする。
- 行動規範的なもの
- こんなん契約書には入れる必要はないけどね、入れたいならどうぞ…くらいの反応を頂いたことがある
甲および乙は、本制作の遂行にあたり、適切な業務環境を維持し、差別、ハラスメント、不正行為等を防止するための適用可能な倫理基準および行動規範を遵守するものとする。
- 甲および乙は、本契約に基づく業務を遂行するにあたり、公正かつ専門的な態度を保持し、合理的な範囲で協力するものとする。
- 本契約の実施に関して問題が発生した場合、双方は適用法令および業界慣行に基づき、協議の上、適切な対応を行うものとする。
- 本契約に関する行動規範として、「ベルリン行動規範」を参考とする。
https://berlincodeofconduct.org/ja/
- こういうメモをよりオープンに書けるよう、「制作側が関与するバジェットやお金の流れについて公開する権利」もまた盛り込んでいい
- 実際このメモに登場するいくつかの案件については、明示的にその条項を盛り込んでいたり、あるいは契約書を交わしていないことを逆手に公開をしている(かなりグレーではあるが)
Re:さのさん
このページは、(広告業界に限らず)現状の商習慣を踏まえた上で、その先にどういう可能性や制度設計があり得るかを考えるためのメモとして書いています。たとえば、フリーランス新法の次にどんな法整備があり得るか、あるいはマネージメント契約や受発注時の取り決めとして何を明示できるかとか、そういう方向の検討です。
例:家具をつくる会社が木の仕入れ原価をわざわざクライアントに伝えたりしないし、木の会社にいくらで発注もらってるとか家具をいくらで売るつもりであるとかわざわざ伝えたりしない
この例は立て付けが逆になっていると思います。問題は「お客さんに原価を伝えるか」ではなく「家具職人に売値を伝えるか」に近い。そして、代理店やプロデューサーは木を仕入れる職人というよりも、むしろ卸や小売に近い立場です。もちろんぼくもプラグインの価格まではクライアントに伝えません(笑) 一度だけ、30万円のGenArts Sapphireを追加見積もりしたらあっさり通ったことはありますが。
ここで想定しているのは、(代理店や個人のプロデューサー、マネージメント会社を含む広義の)エージェントとアーティスト(とそのチーム)が一対一で関わる場合です。エージェントが制作能力を持たず、契約や簡単なPM、フロント対応などを通じてリスクを引き受けるようなケース。ぼく自身がそういう座組で動くことが多いので。一対多の構造(複数の制作会社を束ねるタイプ)についてはさのさんと同意見です。特に、代理店側がクリエイティブ面を統括(CD/AD/Cなどを立てる)している場合はそうですね。
また、一対一の関係でも、アーティスト自身が仕事を生み出した場合(指名やリレーションなど)は、「フィーや全体予算を明示する」文化がすでにある程度機能していると思います。映像ディレクターとマネージメント会社、あるいはギャラリーとアーティストの関係などが典型です。特に後者の場合は、プライスリストという形で上代がすでに公開されているので、パーセンテージを明示するほかないっていう事情もありますが。
少し微妙なのは――というかこのメモで精緻にしてみたいのは、その中間的なケースですね。つまり、エージェントが自らのツテで仕事を創出し、単一のアーティストやチームが実制作を担うような場合。この構造ではフィーが明示されないことが多いし、けど実際は皆「受注額はだいたいこれくらいだろう」と暗黙の了解で動いています。けどその場合においても、少なくともチーム内では、最終的な制作物の「上代」は本来共有されていても良いのでは、と思います。もちろん、複数の制作会社にまたがる場合は難しいですが。
さのさんのような営業職ほどではないにせよ、ぼくのは作側にしては珍しく、全体予算や見積もりを共有してもらえる機会が多いのですが、それは特殊な請け方をしていたり、協力的なエージェントとの関係性によるものだと思います。その一方で、エージェント側の「仕事を創出した」ことの質的価値は、額面上で表しづらい。だから多くの見積書では、制作側が実際に受け取る額よりも多くが「実制作費」として計上されているわけですが、それは本来はエージェントと制作側とが明示的に合意すべきものではあると思うんですよね。「間に入ってるだけでしょ」「法人格を貸すだけでしょ」と放言するほど、代理店業やプロデュース、経営にナイーブな制作者の場合はその限りではないですが(笑)
そして念のため付け加えると、今このタイミングでこうしたダダ漏れをしているのは、特定のトラブルがあるからではなく、むしろ現場が穏やかなうちに整理しておきたいからです。平和なときこそ、制度設計や合意のあり方を考えておくのが健全だと思うので……。