Making of New Chitose 2018 Idents
映画祭のトレイラーをつくりました。映画祭内で行ったプレゼンテーションはこのメイキングの話題でした。参考までに、スライドは以下です。
TL;DR
- 絵は下手だけど一度くらい「手描き」アニメを試してみたかった
- 「アニメーション」に関して間口の広い映画祭なので、3DCG、手描き、クレイ等を混ぜこぜにした作り方・ルックを目指した
- ソフト開発に熱中しすぎて納期落とした(本当にごめんなさい)
何をしたかったか
僕は普段アニメーション作家という意識はあまり無いのですが、それこそ自分みたいな人間が呼ばれるくらいに、この映画祭は「アニメーション」というものに対して間口が広いのが特色だと感じています。ですから、トレイラーも一般の方がイメージするような狭義のアニメーションに印象を限定しないよう、手描きからクレイ、3DCGまで、様々な技法が混じり合ったような質感にしようと考えました。1多義化するアニメーションについては、フェスティバルディレクターの土居さんのこれまでの著作やテキストからも考えが伺えます
また、僕はとても絵が下手でこれまで手描きを避けてきたので、こういう時くらい所謂アニメーションに挑戦してみたいという気持ちもありました。人は無理でも図形のメタモルフォーゼ位なら僕にもモーショングラフィックス感覚で描けそうです。3DCGのアプローチで彩色を施しディティールを加えれば、それなりに見れるものになるのではないかと…。
線画を3DCGソフトで彩色する
問題はその、どうやって3DCGの技法で彩色するかでした。
機械学習を使った彩色
あくまで2次元の画像の状態で、機械学習で線画から法線マップを生成し、それを元にシェーディングしようという試みです。これは、スニペットをコピペするだけで仕組みが根本的に理解出来ていなかったので、失敗しました。
Houdiniでもっこり押し出す
正攻法で頑張ることにしました。まだ使い慣れてないものの、いい感じのアセットが組めました。トポロジーはリメッシュしてきれいに出来るのですが、この後クレイや鉛筆画が混ざったようなルックに整えた時に、デジタルの違和感があったほうが良かったので雑なままにしました。
この段階になってようやく、カンプと企画書を作ることができました。
作画ソフトの開発
Animateの代用を作る
Houdiniで立体に変換する場合、ベクター形式で作画するのが現実的です。Adobe Animateが最有力でしたが、作画ソフトとして利用する場合、個人的にかなり使い勝手が悪く感じました。回転やズーム等のナビゲーション操作がカクつく、Houdini用に整形したデータを吐くためのカスタマイズが難しい等が理由です。そこで「軽くて拡張性の高い」作画ソフトを開発することにしました。
2週間程かけで完成したのが以下のデモです。
Vue.js、Paper.jsを主なベースにしています。どのドローイングソフトにも鉛筆、ベジェ、スプレーなどのツールが用意されているのですが、その挙動自体をプログラム可能にしたものが特徴です。ツールのパラメーター(線幅、塗り)も自由に追加できます。つまり、制作に合った使い勝手や描き心地のツールを、ビルトインのプリセットから調整していくのではなく、ユーザー自身が自由に作り上げることができます。ツールをこしらえるためのツールです。
粗いプロトタイプではあったのですが、描き進めていく中で必要な機能を足しながら効率化できたので、とても役立ちました。例えば:
- Flashのブラシツール風のように、ストロークをアウトラインとして描く
- 重なり合った他の色を消し込む / そのまま残す をトグルで変更可能に
- スムージング係数を追加
- 輪郭が分かりやすいよう、塗りの補色を自動的に線色に適用
ただ、Webベースであることもあり、シーンファイルをLocalStorageに保存できなくなったり(5分おきに自動ダウンロードすることで対処)、動作が次第に重くなるなど課題も残りました。
ツールをこしらえるためのツール
ツール開発については、テクネで作ったクレイアニメやFlyも含めてこの数年熱いテーマです。最近、言語的相対仮説をツールに置き換えたものについてよく考えます。つまり、作り手の思考の枠組みはツールの設計思想に大きく影響されるということです。作り手はそのツールによって出来ること・出来ないことを相対化する機会が無い限り、その機能や特性を自明のものとして受け入れてしまいがちです。2それぞれのツールの指向を意識するには、複数のツールを使い比べることは効果的です。デジタル環境に限っていえば、プログラミングを学ぶことが最も抽象的かつ低レイヤーな部分からツールの特性を理解できます。
書くと長いので仕事で凹んでいない別の機会にまとめますが、表現の可能性や作り手の生産性がベンダーのマーケティング的判断に大きく委ねられているのはあまり民主的ではないように感じます。そもそもベンダーが全ての作り手にとって便利なツールを用意しつくすことは現実的ではありません。作り手がその制作の中で必要な使い勝手のツールをその場でちゃちゃっとこしらえられる環境を用意してあげる方がずっと得策です。
プログラマーなどのある種の気質の人達が集まる分野には、そういった拡張性の高いツールが多いように感じます。一方で、グラフィックデザインや一部の映像制作など、ソフトの重さや面倒臭さには苛立ちつつもビルトインの機能でできる範囲でやりくりする気概の強い分野では、ベンダーによる専制政治(?)を受け入れる傾向があると感じています。僕にとっての理想的なツールは適度に低レイヤーで抽象化されたAPIからなるコンパクトなコアから成ります。ビルトインのコマンドや機能すらも、そのAPIを下地にしたスクリプトとして記述されており、ユーザーはそれを基にさらに使い勝手を良くしたり、必要な機能を新しく作ることができます。今回はその中でもあくまで「描画ツール」に関してのみそうした設計にしました。
このツールは、汎用的なベクターグラフィックエディタにしようと考えています。UX/UI、インタラクティブコンテンツ制作ツールに関しては適切な競争原理が働いており個人的には安心出来できます。 3Sketch、Figma、FramerXなどが例です。Adobeも尻に火がついたのかXDをリリースしています。個人的にはIllustrator自体の設計の抽象度を高める方には向かなかったのが残念です。ですので、そうした動的な機能は抜きに、グラフィックデザインやモーショングラフィックスの分野にプログラミング的な思考を導入できるようなツールにする予定です。コンストレイント機能や描画オブジェクトのカプセル化、マウスやタブレット以外のユーザー入力とのバインド、またタイムライン機能に関してもアイディアはたくさんあります。特に、ベクターベースの2Dモーショングラフィックス制作ツールは(Flashが下火になった今)わりとブルーオーシャンなので、上手く狙っていければと思います。
初めてのアニメーションで1週間程試行錯誤しながら描いたものが以下です。
レンダリング
上記のツールからSVG連番を書き出し、スクリプトでHoudiniに直接読み込めるJSON形式に変換します。(レンダリングの方法もプログラム可能にすればよかったです)Houdiniを介して3Dに押し出し、Alembicで保存します。アニメーションやカメラワークはCinema4Dでつけました。Houdiniに比べ強引なことが出来て使いやすかったからです。
Octane Rendererで雑にレンダリングしたパスをAfterEffectsでコンポジットします。國本怜のVJ素材用に近所のセブンのプリンターで劣化コピーを繰り返して作ったノイズ素材をまぶし、フォトリアル、手描き風、何がしたかったのかよく分からない感じにぐちゃぐちゃっと作り込みました。
まとめ
一番ハマったPCゲームが「ぼくは航空管制官」という程度に空港が好きです。そんな最高な空間に毎年group_inouや友達の作家さんがこぞって集まって、しかも泊まれて色んなアニメーションも観れて、楽しそうだなーズルいなーとか思っていました。
2016年にOlga BellのATAがベスト・ミュージックアニメーション賞を頂いたときも、都合で現地には行けなかったため、今回こうした形でお声がけ頂けてラッキーです。条件的にはどちらかというと「ササッと作ってくださいね」位のスタンスだったと思うのですが、途中で興味が変な方向に深まってしまい、ツール開発含め5週間程度掛かってしまいました。ごめんなさい。
そういう興味の移ろいもあり、一般的なワークフローで映像の受注仕事を丁寧にこなすのが難しくなっています。来年はWebなど他ジャンルにも本格的に挑戦してみたいです。そういえば今春ヴァージル・アブローの展示用什器をFlip-Dotで制作したのを思い出します。コンセプトや内容には一切タッチせずハードウェアと送出画像を設定するための管理画面だけに集中したのが良かったのか、この数年来初めてヘルシーに完遂できた仕事でした。そのあたりに調子よくやれるヒントがあると思っています。映像はこれからも作り続けていきたいですが、当分はツール開発に集中したいです。