橋本 麦∿Baku Hashimoto

有性生殖論

アルゴリズムとして遺伝を捉えたときの面白さの一つは、アルゴリズムによる個体や種の形質の最適化と同時並行でアルゴリズム自体の最適化もなされていることだったりする。映像やグラフィックづくりに使いやすいオレオレLisp方言について考えてるうちに進化という仕組みそのものの進化論の話を読みたくなって買ったんだけど、年明けそうそうオモロいテキストに出会えて良かった。

突然変異というランダムさをいかにして致死性を持たないように潜在化させながら効率的にDNAに溜め込みつつ、その変異が有利か有害かを検証していくという、いわば遺伝におけるテストシステムの洗練の結果が「性」という理解も自分には新鮮だった。高校の頃二倍体とか色々勉強したけど、あれは雑に言えばRAID 1なんだなと。普段の制作用に使う分には冗長性が大事なのでRAID 1で運用するけど、たまに意図的にグリッチさせたい時には、部分的にぶっ壊れてるかもしれないであろうディスクの片方だけを取り出してそいつのデータだけでまたRAID 1を組むといい感じにバグってるという。(オートガミーという自家受精、有性生殖の一種らしい)ほとんどの場合データファイルの読み取り自体ができなくなるんだけど、ごくたまに元のグラフィック以上にカッコいいグリッチアートが出来る。そんな感じで生殖のことを教われたら、高校生物もっと楽しかったんになー。

表現型の多様性はむしろ異系交配よりも同系交配によって起こるという話も面白かった。考えてみれば似た遺伝子同士を組み合わせれば潜性ホモが作られやすいという当たり前の話なんだけど。ミームに置き換えて言えば、多様な意見がぶつかり合う場で表現が均されていくよりも、閉じた人間関係や自分ひとりの思考同士を近親婚的にかけ合わせて濃ゆく熟成された偏りが(多くの場合致死性のダサさとしてスベって消えていくんだけど)表現の裾野を広げてくれるというのは言い得てるなと思った。