橋本 麦∿Baku Hashimoto

行き当たりばったり性

この前imaiさんに持ちかけられて、ちょっとしたビデオを作った。

待たせてしまっている制作が終わるまで他のMVやアートワークの相談は断らせて頂いていた中で、この曲だけ請けてしまうのは気が引けた。だけど、この前imaiさんと長電話した時に全然制作が進まなくて気が滅入ってるという話になり、その翌日くらいに振ってくれたのがこのアートワークとティザー映像で。僕の中では「短尺のを一つでも作りきってみたら気分転換になるかもよ」という計らいとして受け取りつつ、軽い気持ちでやれたのがすごく良かった。久々にツール開発とか考えずに肘から先だけでものを作る感覚を思い出せたような気がする。それでも色んな既成ソフトへの不満や「つくり方を作る」方面へと意識を向かわせるスピりのスイッチを意識的に切って手を動かしたことには変わりないのだけど。

こういう映像を書き出すのが密かな楽しみだったりする。ワンカット系MVで、フレームアウトした美術を慌ただしく組み替えるスタッフたちを俯瞰で撮ったメイキング映像のような滑稽さがあって面白い。最近は、空間的に整合性の取れたレイアウト上をただスムーズに気持ちよく視点がアニメーションするモーショングラフィックスに個人的にはあまり惹かれなくなった。むしろ本来それなりにインテリジェントな使い方をされるべきツールを、作ってる本人もプロジェクト構造が分からなくなる位しっちゃかめっちゃかになりながら、息継ぎ無しに作りきったような動きがとても楽しい。TYMOTEによるクラムボンのMVは、ジンバルロックなんて気にすっか、という適当さが感じられてCinema4Dアニメーション界の私的オールタイムベストでありつづけている。

参考にした作品を他にも挙げるとすれば、illionのMVでもガッツリリファレンスにされていたっぽい、オーディオビジュアル界の名匠ことLucio Areseのこのビデオや

Flyのコマ撮りをし終わった直後に公開されて妙なシンクロニシティを覚えたMoritz Reichartzのラブ風船MVとか。これは伊藤ガビンさんの紹介記事で知った。

本当はこのアイディア自体、Cuusheさんが昨年リリースされたEP、Wakenの曲のうち一つでビデオを作れないかausさんにお誘い頂いた時に持ち込もうと思ってた企画なのですが、それ以前から作っていたビデオが未だに終わってないので先延ばししてしまっていて…。いわゆるオーディオリアクティブ表現って、IDMやクラシックかにあてがわれることが多くて、しかもそのトーンもワイヤフレームがバキバキするかパーティクルがシュワ~と溶けるかのどちらかに収束しがちだったりする。リリース前にT6. Dripのデモをサンクラのプライベートリンクで頂いた時、これまでのCuusheさんのリリースのトーンからの変化含めて色んな意味で感動してしまって。力強いキックでわらび餅が弾け飛び、交錯するピアノで紐グミが細切れになる、ソフトボディな人力オーディオビジュアルが3分半ワンカットで展開したらとても素敵だろうなぁ思って聴き込んでいた。imaiさんの餅MV以降「映像の技法をつくりたい人」という認識を知り合いにはされてるような気がするので、今は逆にナンセンスでただ気持ちいいだけのものを作りたいモードになっている。こうして宣言したのでMV2本絶対作り切ります。


こっからは技術的なコマい話と愚痴。

Houdiniでこの手のアニメーションを作るのはとても骨が折れる。まず根本的に音再生が正確ではないというのは致命的だ。この辺のバグはこの1年ずっとSideFXに報告しているけれど、一向にアップデートがなされない。他のユーザーの方はそもそも手付け音ハメアニメーションをHoudiniでやったことがない(する必要性も感じない)という方が殆どで、僕だけが変な因縁をつけてるようでつらい。ソフト上の再生が当てにならないので、FlipbookをFFmpegでエンコードしてQuickTimeでプレビュー出来るスクリプトを描いた。

また、非破壊的に造形することを前提とした操作感になっているのも手付け中心の制作に不向きな要因で。Houdiniでは何故かベジェスプラインが描けないので、自分でそういうツールを作った。

Non-procedural Houdini assets – baku89

カメラや物体をスプラインに沿わせるのも、標準的な方法だとCHOPsを介したりなんだりして融通が利かないので自分でいい感じのエクスプレッションを組んだ。

キック合わせで弾けるバルーンは、Vellumでシミュレートした3パターンを音に合わせて1つ1つ手動で配置してるのだけど

そういうことをするとSOPコンテクストの下流にグチャグチャな枝分かれと、それを束ねるMergeノードが出現したりする。汚い。

青枠の内側で、TimeShiftとTransformを同時に行った

もちろんパフォーマンス的にも定石としても、1つ1つをOBJコンテクスト上のジオメトリノードとして分離させる方が賢いのだけど、バルーン群全体に対してまとめてポストエフェクト処理をしたい時にそれなりに面倒くさいことになる。だから、レイアウトのような求められるプロシージャル性の低い操作ではツリービューを使えたり、SOPの中にもOBJコンテクストのようにその階層にあるジオメトリ全てが暗黙的にmergeされるようなsubnetが作れたら最高だなとか思ったりもする。

そんなこんなで、HoudiniをいかにもHoudini的でない、雑でチマチマとしたアニメーション制作のために飼い慣らすのに手一杯になっていたのが去年一年なのだけど、このビデオを作ったことで、結局斎藤あきこさんの仰る通り「ツールベンダーは僕のお母さんではない」のだと再実感できて、ある程度は諦めてただ作ろうという境地に至ったのがここ最近。

それでもなおHoudiniに拘るのは、それが可能にしてくれる発想の柔軟さが以前に使っていたCinema4Dに比べとても高いからだ。Cinema4Dは確かに直感的で安定していて、アニメーション作りにも向いているのだけど、ノードベースUIによる造作の自由度が粘土だとすれば、Cinema4DのMoGraphやDeformer同士の限られた組み合わせで表現できるそれは積み木程度に感じる。実際プリミティブオブジェクトの組み合わせで実現できるジオメトリックな造形に無意識に発想が引っ張られるので、耳小骨みたいなやつがスネア合わせでチャチャチャチャっと現れるようにしよう、とか気軽には考えつかなくなったりする。

耳子骨 – Wikipedia

じゃあHoudiniで全部を完結させずにアセットとして作ったものをCinema4Dに読み込ませりゃいいじゃん、とも思って一時期試していたのだけど、パラメトリックに制御されたオブジェクトとしてパッケージ化する過程と、それを配置して動かす過程がワークフロー上分離しているのは、アニメーションから「行き当たりばったりゆえのバイブス」をスポイルする感覚があってそれはそれで辛かった。そういう気持ちも込みで下記のツイートをしたら、こんなリプライを頂いたのでやんわり反論したらブロックされてて40秒くらい凹んだ。

ツールに対して文句をいってばっかりな自分に嫌になったりもする。HoudiniもCinema4Dも気持ちとしては大好きなソフトなのに。ただ一方で、その辺のデザインツールがあるべき設計思想や操作感の答えは既に僕の中でかなり具体的な形で出ていて、Glispの開発を通して世の中に、とはいかなくとも半径50mくらいの知人友人にはプレゼンテーションしていきたいと思っている。あのプロジェクトを通して実現できるのは、一部のハッカーマインドに溢れた人たちだけに刺さるニッチな機能だけではなく、Illustrator 9で不足なく使えてるよって方含めてみんなにとって便利で良いことだと確信しているので。他方で、一介の映像作家としてそんな根源的なことなんぞ考えずにただ映像をシコシコ作っていたい気持ちもあって、常にその板挟み状態なのは変わらない。ともかく、このビデオや、最近続けてる一日一枚グラフィック制作のおかげでだいぶ気持ちが晴れやかになったので、今年はこの感じで突っ切っていこうと思った。