橋本 麦∿Baku Hashimoto

TENETで疑問におもったことのメモ

Sorry, this entry is only available in Japanese.

RedditのメガスレッドのFAQを参考に、特に疑問に感じていたことや友達と話題になった所を個人的に調べてメモ。あとMakoto Kitamuraさんから頂いたコメントがかなり正確そうだったので、追記。公式ガイドブックが来たら更に編集するかも。


タリンの高速道路での241の行方

まず抑えておくのは、241自体は終始順行であること。241の視点に立つと:

  1. ウクライナ保安庁の輸送車から順行のP(Protagonist = 名もなき男)にケースごと奪取される
  2. オレンジのケースだけ逆行するセイターの車に投げられ、241は逆行Pの運転するSaab(グレーの車)に投げられ、そのまま後部座席に収まる。その様子を逆行セイターに目撃される
  3. フリーポートで逆行Pが降りた後、何らかの方法でセイター一味に回収される

つまり、Pが初めて逆行した後Saabに乗り込んだ時点で241は既に後部座席に収まっている。その証拠に、Pは車を発信する直前後部座席をチラッと確認する。そしてその「241が後部座席に収まった」原因を作るために、再び高速道路に駆り出す。

ちなみに、逆行した時点でなぜかケースの位置がGPSで捕捉できているが、その原因を作るために逆行Pは発信機をケースに付けにいくことにも注意。(この時発信機とスマホは順行している)

オペラハウスの逆行弾は、建設時点から建材に埋め込まれていた?

わりといろんな場面で疑問に思う点。順行Pとニールが乗っていた車のサイドミラーの割れはレンタカーから借りる時点で入ってた? とか。メガスレの説としては、ニールの「逆行するのは流れに逆らって泳ぐようなもの」という台詞から想像するに、逆行物質は順行世界に逆らって進むうちに時間の矢の抵抗を受けてやがて順行に転じるとのこと。これは辻褄の合う部分もあって、オスロのフリーポートの最奥部に二人が入った時、弾痕のヒビが少しずつ広がっていくような描写があった。弾痕自体は逆行Pの銃によるものなので、逆行視点ではガラスが自然治癒したことになってしまうが、時間の矢の抵抗説によるとそのヒビは無限に過去へと遡っていくのではなくやがて順行へと転じるので、「逆行視点で」ヒビが逆行して治癒していくのは説明がつく。同様に、サイドミラーの割れも、ある時点から独りでにヒビが入りはじめて、逆行者とぶつかったことで完全治癒する。あとは:

  • キャットの臀部を撃ち抜いた弾痕
  • 順行グレネードによって壁の中に埋め込まれた青チーム隊員

とか。

とはいっても、順行Pが逆行Pの腕に付けた傷は順行じゃん? オペラハウスの弾痕は(更に過去では)綺麗サッパリ消えたとしても弾だけ建材の見えない所に埋まってたってこと? そもそも未来人が金塊寄越すのも無理では? とか色々疑問も出てくるけど、そこはもう気にしない。

スタルスク12で挟み撃ちでビルをぶっ壊す意味は?

アレが現象としてどういうことだったのかはパンフレットに書かれているが、そもそもぶっ壊した意味は、地下通路へと入る「別部隊」が敵に見られないための目くらましだったっぽい。台詞の流れではアイヴスの発案に思えるが、青・赤チーム双方が、それぞれ相手のチームから「あのへんの崩壊したビルがちょうど5分で元通りになるから、そのタイミングで狙って撃ってくれ」と聞かされていた通りにただ発破したというこということになる。だからあれは誰も発案者の居ない因果のループ。これは挟撃作戦全体に言えることだけど。

自由意志は結局どうなるの?

物語全体が両立主義(決定論と自由意志が両立する考え方)にも似た立場で書かれている。ニールは未来の死を知ってなお自由意志のもと「燃える熱さに飛び込む」。デスノートに書かれた人物のように、意思を失った機械のように未来に合致した行動を取るということではなく、未来を知った上での気変わりや微妙な行動の変化も含めて、予め歴史に織り込まれているという世界観。

一方で、主人公が過去を変えようとした時、プリヤやニールが「改変出来たとしても、その世界を知覚することは出来ない(If that universe can exist… then that’s not what we live in.)」という趣旨の発言をしていたことから、逆行後に意図的に見知った歴史と違う行為をした時はその過去が新しい世界線となるが、自分たちの居る世界線自体は変わらないという解釈も出来る。

また、祖父殺しのような過去改変が行われた場合については「多元宇宙と意識の関わりは謎」とか雑にボカされていたけど、結局未来人の計画が阻止されたことで、プロットの範囲では矛盾をきたしていない。

結局TENETはどうなるの? プリヤはなぜキャットを殺そうとしたの?

追記: Makoto Kitamuraさんから頂いたコメントのほうがRedditのFAQより正確そうだったので:

未来に情報を残してはいけないのはアルゴリズムの存在です。作戦開始前にアイブスが主人公と二人だけの特殊チームだと告げたセリフは「カプセルの中身を知る者を残すわけにはいかない、つまり俺たちだろ」(No one who knows the contents of the capsule can leave the battlefield. I think we take care of ourselves.)= 死を覚悟できてるのは俺たちだけだろ、です。(この覚悟の証明が最初のテストが必要だった理由の1つです。他にも単純にプルトニウム241を移動させるため)

レッドチームの隊員が「ブルーチームの姿が見えない、嫌な予感がする」と言っているように、他の隊員は逆行は理解していても死は覚悟していませんし、「誰が爆弾を解除するんですか」と質問している通り、一般兵はアルゴリズムの存在を知りません。

逆行技術自体は遠い未来に必ず見つかりますが、アルゴリズムがどんな形で隠されているのか、ましてや全部が過去に一度に集まったことがあるなどとは、なにがあっても知られてはならないので、全部が集まったことを知っていたプリヤは消されました。

アルゴリズムは結局過去に向けて埋め直せば良かったんでは?

(北村さんより)劇中にあった説明としては、この時代の核管理が前後のどの時代よりセキュリティが厳しいからっていう理屈。だとすると更に過去に埋めても逆に危険という理屈なのかなと。わかんないですけどね。

Pが黒幕なのに「テスト」をする必要はあったの?

上記のような目的から、最終的には主人公自らも(情報が漏洩する前に)自死する必要があるかもしれない、少なくとも命を賭けて情報を守らなくてはいけないので、その素質を見抜くための「テスト」は必要だった。あとは単に、「テスト」の記憶がある以上、過去の自分に楽をさせちゃうと過去改変になっちゃうし、という。

キャット結局合図を待たずに殺しちゃったけど?

キャットはそもそも作戦のある種の「担保」であって、なくてはならない存在ではない。仮にキャットがセイタ―の自殺を上手く先延ばしに出来たとしても、セイタ―がやがて死んだ時点でアルゴリズムの場所は送信されるので、結局爆心地からTENET一行が奪取できるかどうかに懸かっている。キャットが奪取よりも前にセイタ―を殺したことで場所自体は送信され、作戦成功以外に後は無くなったが、結局奪取に成功したので何事もなかった。というのがRedditのFAQでの結論。

でも爆発後に「記録」を揉み消せばよくね?

“Another pile of emails set to reveal the pickup location, if his heart stops.” とあるように、取り返しのつかない形でメールをたくさんばら撒いたのかもしれない。

じゃあ後でこっそり掘り返せば?

映画上、そこは「爆発で埋める」「記録を残す」ことが成功した時点で未来でアルゴリズムは確実に起動され、その後TENETサイドがいかなる方法をとっても遡及的に無効化される、ってことにしたいっぽい。

似た状況はラストシーンにもあって、プリヤはキャットが携帯をかけた時点で、その後それがPに届くのを阻止しようが無効化される。とFAQでは説明されているが、セイタ―と違い「記録」の宛て先は現在のPなのと、どのみちプリヤが何か行動を起こす前に車中で殺されているのでちょっと違うような。

弾痕と水たまり

オスロの回転扉の窓に逆行Pが二発打ち込んだ弾は逆行視点で普通に窓ガラスにヒビを残したが、タリンで踏んだ水たまりは踏む時に水が逆再生で集まってくる。逆行物質が順行世界のものに与えた衝撃は水たまりの場合「未来」へ、弾痕の場合「過去」へと伝搬している。そのへんの設定はわりと雑?

字幕だけじゃ分かりづらい

ファンメイドのTranscriptより:

「パラシュートは?」

N: How’s your parachuting?
P: I broke an ankle during basic training. Singh’s house isn’t tall enough to parachute off of.
N: It’s bungee jumpable.
P: I don’t think “bungee jumpable” is a word.
N: It may not be a word but it may be our only way out of that place. Or in to it for that matter.

「推論か?」「演繹だ」「演繹法か」

旦那: Fine assumption.
P: Deduction.
旦那: Deduction then. Look, my griend.

「結構な思い込みだな」「いや、当然の推理だ」くらいのニュアンスか。韻を踏んでいたのに合わせて熟語で揃えたかったのかな。

マヒヤの台詞

P: Well it seems… bold.
M: “Bold” I’m fine with. I thought you were gonna say “nuts”.

「陽電子は時間を遡る」

微かに残るキップ・ソーン監修の痕跡。具体的にファイマン図とジョン・ホイーラー(青チーム隊長の名前の由来)に触れている。

P: No. Technology that can invert an objects entropy.
N: You mean reverse chronology, like Feynman and Wheeler’s notion that a positrons and electrons moving backwards in time?

「君の店に来た男」

ディナーしたレストラン? とも思ったが、キャットの勤めるオークションハウスの “Shipley’s” 。台詞の随所で登場する

「検証窓」

reimbursement window : 弁済、償還。なんとなく意味は通る。

「顧客を倉庫へ紹介する」

キャットが贋作の置き場所を語るシーン。

K: We started a network. Rotas, his construction company, built them, I brought in the clients. The facilities are tax havens.

Rotas は具体的な社名として随所に登場する。例のコンテナも、Rotas所有のもの。3人はオスロ空港の倉庫近くから運び出されたであろうことを期待して入った。

「またロンドンに戻るのか?」

N: You’re not going to London to see Kat?
P: No. It’s way too dangerous.
N: Not even at a distance?

ニールとPが「遠くでこっそり見守ってていい?」ってイチャついてるシーンかと思ってた。

英語のお勉強

  • You’ve been made.
  • Take one’s life
  • ignorance is our ammunition,
  • The filthy business…
  • Vengeful Bitch

そもそもTENETはそこまでハードSFとして考察に対する強度を持った作品ではないと思うのだけど、描写から作品世界のルールを帰納するのは二次創作的な面白さがあって楽しい。