橋本 麦∿Baku Hashimoto

スリットスキャンの応用

NEWREELのインタビューで「スリットスキャンというテクニックにしたって、まだまだ全然出尽くしてない」なんて偉そうなことを言っていたので、以前から考えていた手法を半日かけて試しました。スリットスキャンらしさってのは一見あまりないんだけど、れっきとしたスリットスキャン。

どのようにスリットスキャンするとどういう画が出力されるのかをイメージするのって案外難しくて。だからこの手法は「時間をどう前後させるか?」ではなくて「映像の1コマ1コマを積層させて出来上がった金太郎飴を、どのような断面でカットしていくか?」と考えると分かりやすいです。

金太郎飴を垂直にサクサク薄切りしていくと、その断面は普通に映像を再生したように変化します。斜め切りすると、いわゆるスリットスキャン。そう考えると、当てる包丁の形は別に真っ直ぐじゃなくて良いわけです。ギザギザでも何でも。

今回の動画の例でいうと、右から左へ移動する車はこんな金太郎飴をしています。

これを、こういう風に切ると短くなります。

こういう風にジグザグに切ると、車両の真ん中だけを伸ばせます。

AfterEffectsで作る場合、S_TimeDisplaceがかなり使えます。黒をフレーム0、白を最後フレームとしたマットをリファレンスに出来るので。標準エフェクトだと、現在のフレームを起点とした相対量でしかスリットスキャンできないので。

ちなみに、こういうことです。


個人的にはスリットスキャンという名前が適切でないような気がしています。この手法は、映像の金太郎飴の断面を、時間軸方向に変位させていくという意味でタイム・ディスプレイスメントと呼んだほうが良いです。After Effectsにも同名のエフェクトがありますし。タイム・ディスプレイスメントのうち、断面が平面なものがスリットスキャンです。断面を静止画として使っても良いですし、移動させながらサクサク薄切りすると動画になります。

この捉え方で、スリットスキャンっぽい作品を見ると、なるほどこれはこういう断面で切ったもんなんだなーと、より理解が深まると思います。これは学生時代に、常磐線の車窓から撮った映像をスリットスキャンしてパノラマにしたものです。Adam Magyarのパクリですが、移動しているのは視点の方。

パースが、水平方向には平行投影図法、垂直方向には透視法になっているのが面白い

最近だと、好きな映像作家のPáraic Mc GloughlinやHiroshi Kondoさんビデオも。

今回の車が短くなるのは、Dirk Koy氏のビデオを参考にしました。ソースのFPSが低いとこういう風にジャギるんだけど、それを逆手に取っているのが面白い。

数年前流行ったInceptionっぽい風景画像も、ドローンを使ったスリットスキャン。

と思ってチュートリアルを調べたら、俯瞰具合を変えて何枚か撮った写真を無理やりつなぎ合わせて作る方法がなぜか多かったです。飛行軌道のブレが問題なのか分からないけど、タイム・ディスプレイスメント使えばいいのに。

素材にしたって、溶けていく氷のタイムラプスといった「経年変化」系のフッテージを使っても面白くなりそう。とにかくこの手法はまだまだ掘りようがあるので、そういう制作があれば誘ってください。

関連記事