橋本 麦∿Baku Hashimoto

ベナール・セルを撮る

最近、仕事でベナール対流という現象を撮影する機会がありました。Wikipediaによると「薄い層状の流体を下側から均一に熱したときに生じる、規則的に区切られたセル状の対流構造」とのことですが、要するに味噌汁を放っておくとモワモワと流れ始めるアレです。

以前からご一緒したかった映像作家の小野龍一さんと相談しながらあれこれと試行錯誤していました。高価な機材無しに、さながらジェネレーティブ・アートのような面白い画が撮れるので楽しいです。ジャンルとしての流体系ムービーに「熱対流」という新しい方法論を提案できたように思えて嬉かったので、撮影方法をメモしておきます。

必要なもの

シリコーンオイル以外は東急ハンズで揃います。

撮影方法

  1. シリコーンオイルに金属粉を適量混ぜる
  2. ホットプレートの上に置いたシャーレに、2-3mm程度の深さで (1) を注ぐ
  3. 低温で慎重に温める(80-100℃前後かと)

これだけで、このような画が撮れます。ボロノイ分割を思い出します。

お味噌汁で試してみても面白い画になりました。ホットプレート全体に3cm程度の深さで注いでいます。普通のガスコンロでも大丈夫そうでしたが。


Tips

以下、撮影中に気づいたことです。

粉末の濃度が高くなるほど、セルの輪郭がはっきりと直線的に見える

上記GIFの真鍮粉を使ったものは比較的粉末は薄めで、輪郭も透明感があり丸っこいです。アルミ粉は濃ゆめに溶かした結果、カチカチの銀歯のような質感になりました。

ホットプレートの電熱線の位置によってパターンが微細に変化する

理想環境下ではセルは六角形になるらしいのですが、微妙な温度勾配にかなり機敏に反応するようです。可能であれば実験用ヒーターを使うのが良いのかもしれません。

層の厚さが薄くなるほどセルの大きさが小さくなる

水平方向の温度変化によってもセルのパターンが変わる

逆にこの性質を利用して、セルの大きさや形状をコントロールできそうです。以下は、色々試したところです。



まとめとおまけ

事務所に簡易スタジオを建て込んで撮影しています。無論、しっかりとしたスタジオとスタッフで物撮りした方が画的なクオリティは上がるのですが、この手の実験は「その場で思い立って東急ハンズに材料を買いに走る」ようなことがいかに出来るかが肝心で。再現性も低いので、撮影方法を予め確立してからスタジオ撮影に望むのも難しかったかと思います。実際、1週間ほどかけて色々な方法を試しながら偶発的に撮れたフッテージを使いました。(水にとろみ剤と粉末みそを混ぜてみたり、とにかく色々試行錯誤しました。)

言うまでも無いですが、金属粉は危険物なので取扱に注意してください。シリコーンオイルも過熱すると泡を立てて変な匂いを出すので温度管理は特に気をつけ、また使用した液体はそのまま台所から捨ててはいけません。

カメラも熱源から十分離した上で、湯気などに注意して設置してください。真俯瞰は避けたほうが良いです。

YouTubeの撮影手法を解説したビデオなどを参考にしています。

gettyimages等でいくつか綺麗に撮影されたスチール素材は確認できるのですが、映像としてここまで綺麗に撮影したものは調べる限りだとありませんでした。手法的にも発展の余地がありそうなので、積極的にパクっていって頂けると嬉しいです。

おまけに、その後個人的に撮影したフッテージを載せておきます。CC-0ですのでご自由に。

Rayleigh–Bénard convection Footages